約 301,183 件
https://w.atwiki.jp/wiki16_novel/pages/52.html
揺れるトラックの中で再び情報を確認してみる。 場所は○○にあるコントローラーの専門教育学校。 敵対象の数は約10。 形態は全長50cm、体高30cm大の蜘蛛のような姿。 しかし、その学校の生徒や教師が攻撃する度に その数と戦闘能力を高めているとの情報あり。 既にその数は60を超え、全長は1m50~2mはあり、 皮膚の変化した頑丈な装甲板と元の数倍の筋力を 有しているとの情報も確認。 単純に考えれば非常に厄介なエネミーである。 しかし水上は全く心配していなかった。 オフィシャルメンバーとして常に第一線で あらゆるエネミーを葬り去った水上にとって 今から向かうところにいるであろうエネミーも ただ「駆除」するだけの対象であり 自身の敗北などはまず公算にいれる必要な無いのだ。 「ついたぞ。総員リボルブし次第各個対象を駆逐開始」 水上はもうとっくにリボルブしていた。 そして真っ先にエネミーの中へ突っ込んでいく。 隊列を組み、まとまって戦うばかりが能ではないと 水上は考えている。 校門の外に数匹のエネミーが見える。 最初に聞いた敵対象の情報に近い形態。 「…情報の真偽を確かめさせてもらおう」 そう水上は呟いき、いつも通り水でエネミーを 一刀両断した。 エネミーはすぐに沈黙してしまった。 他のエネミーが水上に気づいて近づいてくる。 水上はそれらも次々と切断していく。 数体のエネミーを駆除し終えたのち、 ふと最初に切断したエネミーを見ると 再生を終え、より屈強な姿に変わっていた。 「情報は確かに真だったか。 これならそうやすやすと切断するわけにもいかないな」 そう言いつつも、水上に焦りの表情はない。 水上は一旦全神経を回避行動に集中させ どう戦うべきか考えていた。 おそらく、単に分断するだけでは即座に復活する。 となれば、核となる部分を破壊するしかない。 しかし、それは一体どこなのか? もし自在にその位置を変えられるのならば 無闇矢鱈と切り裂くのは得策ではない。 ではどうするべきか。 「仕方ない。あまりいいものじゃないが、アレをやるか」 水上は素早く一匹のエネミーに近づき、 すれ違いざまに一瞬そのエネミーに触れた。 エネミーは自分の後方へ回った水上を追いかけようとするが どうも様子がおかしい。 体勢をガクンと崩し、そのまま地面に倒れこんでしまった。 そして次の瞬間、エネミーの体が突如膨らんだかと思うと 爆発して四方八方に肉片が飛散した。 水上は水の壁で飛んできた肉片を避け、 バラバラになったエネミーの残骸を見た。 エネミーはいっこうに再生しない。 水上はエネミーが完全に沈黙したことを確認し、 同様の手法で次々とエネミーを駆逐していった。 水上はまず水分子が激しく振動する光景を想像し、 そのイメージを維持したまま片手に力を集中した。 次に、エネミーに一瞬触れた際にその力を体内に送り込む。 送り込まれた力はエネミーの体内にある水分子を激しく振動させる。 体内の水はすぐさま沸騰して水蒸気となり、その熱で 行動不能になったエネミーに追い討ちをかけるかの如く 水蒸気による内部の圧力に耐え切れなくなった体を爆発させる。 非常に強力な戦闘術だが それに比例して後片付けが面倒ではある。 水上はエネミーの駆逐に集中すると、後始末のことなど 頭から完全に抜けてしまう悪い癖があった。 校庭では教師・生徒・エネミーが入り乱れて戦っている。 オフィシャルメンバーの一人が学校のスピーカーを シンボルの力で拝借して呼びかける。 「校内で戦闘中の皆さん!只今オフィシャルメンバーが到着しました! これより駆逐作業に入ります!教師・生徒の皆さんは 校舎内に避難し出入り口にてエネミーの進入を防ぎ これ以上負傷者を出さないことにだけ集中してください!」 入ります、というか既に入っている。 水上はかれこれ15匹は爆砕している。 今の放送で校内に逃げ込む人が多くなり それを追いかけるエネミーも数を増す。 途中で数名がエネミーの攻撃により地面に倒れる。 近くに助けてくれる仲間がいない生徒3名を 水上は水で縛って引き連れる。 生徒を玄関に降ろした後、水上は玄関前にて 最後の仕上げにとりかかった。
https://w.atwiki.jp/kagakyon/pages/996.html
タン、トン。 そして少しの間隙。 タンッ、……トン。 文芸部室に無機質に。板を叩く音が静かに響く。 「ハルヒはまたか?」 目の前の状況を冷静に見つめ、待つ。 「ええ。先日は心霊スポットが県内にあると聞いてそこを訪れたようです」 古泉の手が伸び、黒い彫刻を掴む。 そしてその彫刻で白い彫刻を倒す。 タン。 「今日もいないってことは…」 俺も手を伸ばして彫刻を掴む。 但し、白い方だ。 トン。 「…今日もバイトが忙しくなります」 タンッ。 「そうか…まぁ、頑張れ」 トン。 「…ところでお聞きしたいのですが」 「何だ」 盤面はもう佳境に入ってきた。 この罠が成れば… タンッ 「最近は随分と、機嫌が良いですね」 にっこりと爽やかな笑み。 …特に顔に表情を浮かべたつもりも無いのだが、俺が長門の表情を少し読み取ることができる程度には俺を読めるらしい。 いつからお前は俺の精神面まで取り扱うようになったんだ? 「最近は疲れるようなことも無いしな。それに、お前も普通の学校生活が望みじゃなかったか?」 トンッ。 「…感激です。あなたが僕のそんな些細な事を覚えているなんて」 タン。 「気持ち悪い事を言うな。そして1Bポーン、クイーンに変身だ」 「いやはや、照れ隠しにこれは痛い」 「だから気持ちが悪いと…」 あれから3日。 学校は火災報知器を鳴らした犯人を見つけられず、何事もなかったかのように普通だった。 手元の『T-note』を見る。 確かに凄いものではあるが、弱点も多い。 カチカチカチ、と操作して長門を調べる。 そこには名前と少しの身体データ。 そしてスキャンダルと言うには余りに些細な"俺との怪しい関係"(?)しか載っていない。 SOS団のこともある程度書かれてはいるが勿論使えはしない。 …要するに、過去が潔白な奴には使えないのだ。 同じく過去が無い者にも使えない。 俺は携帯を操作して長門、喜緑、朝比奈、の三人を消す。 また、この携帯の持ち主では無い俺には情報の更新は望めない。 よって、人に知られたく無い過去を持っている奴しか動かせない。 一応、1人1人見たが犯罪ギリギリまでの行為に手を染めた経験があるのは片手では足りず、両手では少なず、と言った状況である。 俺は自室で黒い携帯を閉じるとその側面を見た。 SDカードを挿入できる部分がパテで埋められている。 その後にヤスリを掛けられたのか、平らになっている。 そして赤外線通信の機能が壊されている。 ……つまり、これは複製不可能だと言う事だ。 一見すると不利な状況でしか無いが、逆に考えればこれは自由に動かせる人間が十人足らずいるのだ。 その数人が人を使えれば実質数十人と扱えるのと変わらない。 しかも、この携帯にはありがたい事に誰がどんなグループに属しているかという情報さえ載っていた。 女のグループというのはあまり変動は少なく、でる杭は打たれる…否、討たれる。 そのグループにはトップが存在する場合にはトップの情報(誤情報でもいい)を流せばすぐに転落する。 「……ふぁ」 この3日間。 何もしていなかったと言えば、そうでは無い。 待っているのだ。 数粒の米が、稲穂となり。 稲穂が種として米を数十倍に返してくれるのを。 "K"がデビューするのを。 ─生徒会─ 「喜緑君、何か分かったかね?」 「フェンスを切り刻んだ犯人、ガラスを割った犯人、そしてコンピューターの配線を滅茶苦茶にした犯人は捕まえましたが…」 そのいかにも、とした眼鏡を掛けた生徒会長は頭に部費などが書かれた決裁書を浮かべた。 少子化が進む今日に余った金などなく、それらの損害を直すために部費を削らざるを得ない。 頭を悩ます問題である。 「どうかしたのかね」 しかし部下の前では常に不安な顔など見せてはならない。 冷静な顔つきで応対する。 「理由が無いのです。まるで誰かが命令したのでそれを仕方無く…と言った様子で」 理由が無い? まさかストレス解消の為に内申点を下げて、調査書に傷を付けた訳でもあるまい。 しかも同日に、同時刻に。 「……誰か、」 そんな事をさせられる人物。 考えてみたが情報が余りに少なすぎる。 「あぁ、喜緑君。すまなかった。下がりたまえ」 生徒会室に二人きりだったが当人たちには甘い空気などは無く、ただひたすら事務的だった。 その女性が退室すると会長は眼鏡を外し、懐に潜ませていた煙草をくわえる。 だが火は付けない。 仮にも生徒会室であるのに煙草の匂いが付いてしまっては管理を疑われる。 あくまでも気休め。 フィルターを軽く噛んで溜め息のを吐く。 「………………ブッ殺す」 その声は誰にも届かず、当人の胸の内に秘めたる決意として根付いた。
https://w.atwiki.jp/shinatuki/pages/101.html
彼は目を覚ました。辺りを見回すともう一度目を閉じ、また開いた。そして今度は頬を抓っていた。痛さの余り痛いと叫び煩い事この上ない。 頬の痛さが現実だと物語っている。それでも彼は何度も瞬きは繰り返す。何があっても目の前の光景が現実だとは思いたくはないようだ。 「あら? 目が覚めたのかしら」 辺り一面、無数の目目目手手手時折標識、そんな空間に女性が一人佇んでいるのである。 気が狂いそうな空間に美しい女性がただ一人、彼にとっては救いの女神に見えたのは必然であった。 「うおぉうおお!」 意味不明な言葉を発しながら女性にすがり付こうとするがその手は決して届くことはなかった。 「さて、アレッシーだったかしら?」 「何でオレの」 「黙りなさい! あなたの発言を許した覚えはないわ」 ただその一言で彼、アレッシーは己がこの場では弱者であることを認識した。 この空間を支配するこの女性から放たれるプレッシャー。それに逆らえるほどの力を彼は持ち合わせてはいない。 彼は力がなかった。故に虐げられた。 彼は力を得た。故に弱者を虐げた。それは彼の感性を刺激した。そして弱者を虐げる快楽を覚えた。 彼は弱い物いじめが好きだ。一方的に自らの快楽を得ることが出来るからだ。 彼は強いものに媚びる。そうすると強者は彼に危害を加えないからだ。 彼は強いものが嫌いだ。だけれどもそれ以上に自らが傷つくことが嫌いだ。 「スタンド……セト神を出しなさい」 故に心の中で幾度となく彼女を罵倒し犯しながらも一切の反論もなくスタンドを繰り出す。 彼は思い出した。彼女が『セト神』の通じなかった相手だと。 「物分りがいいこと。だけど……ね?」 「ッ!?」 一発の弾が彼の鳩尾に衝撃を与える。 「その邪な考えも顔も性格も気に入らないわ」 その神々しくも妖しげな美しさを持つ顔には一切の笑みはない。アレッシーが彼女の表情から読み取れる感情は唯一つ……侮蔑。 逆らえば死ぬ。機嫌を損ねれば死ぬ。心の中で罵倒しても死ぬ。 彼に残された選択肢は黙したまま恭順の意を示すだけだ。彼の中にどす黒い何かが溜まっていく。 恐怖、それだけがアレッシーの体を支配していた。いや支配を受け入れたといった方が適切であろう。 如何なる能力かは図りかねるがアレッシーの心の内を読んでいる節が目の前の女性にはあるのだ。下手に抵抗すればそれは害意とみなされるかもしれない。 「犬畜生だってもっと抵抗はするけど……まぁいいわ。感謝なさい、生かしてあげる」 その言葉に安堵の溜息をつくアレッシーであったが、彼の目の前の女性はアレッシーを最早路端の石としてみていないのか、一瞥すらしない。 それもそのはず。紫はアレッシーに対して威圧感たっぷりで佇んでいる様に見られるが、その内心では見てくれだけでなく、体の内側から、経験と精神が若返っていくのはっきり感じていた。 思わずにやけそうになる顔を必死に堪え仏頂面でいたのだ。彼女は内心ではひゃっほーいと万歳三唱を行っている。ただそれを面に出さないだけだ。 唐突に空間に裂け目が出来る。裂け目から見える景色は正気とは思えぬ光景ではない、人が生存することが出来る大地の景色だ。 女性は何も言わずその空間の裂け目に身を投じた。アレッシーは動いたオレもここから出してくれと言葉を発しない代わりに手を伸ばした。 その手は永遠に届かない。無常にも亀裂は最初から何もなかったかのように閉じてしまったのだ。 八雲紫は幻想郷に舞い戻ってきた。彼女が家出をしてから一日以上経過していた。もう時刻は夕暮れだ。マヨヒガの空は緋に染まり始めていた。 いつもならば彼女の式である藍が夕餉の支度をしているはずだった。そう、しているはずだった。 竈に火がつき、煙突から上がる煙やおかずの香り、いつも通りの日常ならば家が近づくにつれて、『今日のおかずは何だろう』と心が躍るはずだ。 台所では時折橙が藍と一緒に料理をしている。その喧騒すら聞こえない。 マヨヒガの我が家にはまるで最初から住人がいないように感じられた。 紫は考えたくはなかったが覚悟を決めなければならない。それは想定していた中で最悪の状況だ。彼女が家を出たように藍も家を出たのではなかろうか。 それは式とはいえ、一つの一人格を持った存在ならばしてもおかしくはない行動だ。例え式であることを利用し、強引に呼び戻したとしたらどうだろうか。 先ほど浮かれる心を抑え、素敵なスキマ空間の中、セト神で体の内側と精神まで若返ったのだ。だとしても藍は決して紫に昔のように甘えたり敬ったりはしないだろう。 むしろ理で説かず力で抑え込んだ紫を軽蔑するのではなかろうか。それは最悪の結末だ。 紫の家路までの足取りが酷く重くなる。時間はとても長く感じられた。シンと静まり返った我が家の玄関へようやくたどり着いた。 大きな深呼吸を一つ、早くなる胸の鼓動を抑えながらゆっくりと扉に手をかける。鍵は……いつも通りかかっていない。 「た、ただいま……」 家の中には灯が入っていない。薄暗い廊下が目に付く。それでも紫は緊張しながらも自らの帰宅を告げた。 「やっぱり……」 出迎えはないものか、そう言葉を紡ごうとしたが奥から聞こえてくるドタドタドタという荒々しい足音にその言葉は遮られた。 「ら、藍!」 紫の出迎えに出てきてはくれた。だがやはり様子がおかしい。普段ならば柔らかな笑みと共に『おかえりなさい』という温もりのある言葉を紡ぐのだ。 それなのに全く言葉を発しない。それどころか何かの感情を溜め込んだかのように必死な表情だ。その表情に思わず身構えてしまう。 「紫様!」 「ひぃ! な、何かしら……」 荒ぶる心の内を表したかのような強い口調で自らの名を呼ばれ、驚いてしまう。それを隠すために必死に取り繕うとするが上手くいかない。 紫は内心ビクビクしていた。もしかしたら藍の怒りがまだ収まっておらず、また何か文句を言われてしまうのではないかと悪い方向へつい考えてしまう。 「ゆかり……さま」 そんな紫の心情を知ってかしら知らずか、一歩、また一歩と近づきスンスンと鼻を鳴らして紫の臭いを嗅いでいた。 今の紫はネガティブゾーンまっしぐらな思考である。『臭いんだよ!ババァ!』と罵られはしまいかと心臓がバクバク言っていた。 その心境は例えるならば憧れの先輩に告白はしたけれど、やっぱり断れるのではないかと考えながら返事を待つ、青春真っ盛りな女子高生だ。 「いい……香り」 「え?」 藍は何と言ったのだろうか。『いい香り』といったのだ。決して臭いなどと言っていない。まさか聞き間違いではなかろうかと半ば混乱する紫。 「ら、藍?」 「紫様・・・ゆかりさまぁ~!」 何と言ったのか再度問うことは出来なかった。何故ならば、藍は紫の名を叫びながら彼女の豊かな胸に飛び込んだのだ 「藍? え、何これ?」 「ゆかりしゃまぁ゛、ごめんなさいごめんなさい、もうでていかないで~!」 泣きながらに紫に謝罪する藍。紫の胸元は藍の涙と鼻汁と涎で見る見るうちに汚れていく。だが紫はそれを苦には思わない。むしろ喜んでいた。 ひたすらごめんなさいと謝り続ける藍の頭をそっと撫でる。 「うふふ、いいのよ藍。私もあなたに少し苦労をかけ過ぎたわね。ゴメンね、藍」 「うわぁぁ~ん! ありがとうございます~」 紫の優しい言葉に今度は喜びの余りさらに涙を激しくする。それをとても優しい母親のような眼差しであやす紫は内心でガッツポーズと喜びの雄叫びを上げていた。 (あのセト神とかいうやつの能力のおかげで藍の愛が取り戻せた! さすが私、目の付け所が違う!) よしよしと未だ泣きじゃくる藍をあやしながら幸せな気分に浸っていた。だが優しい顔の紫の表情が突如として一変する。そう彼女の体の内部に異変が生じたのだ。 いや異変というのは適切ではない。元に戻ってきたというのが適切であろう。 それはまさに水を差されたといっても過言ではない。アレッシーは恭順の意を示しておきながら幸せの絶頂にいるときにそれをぶち壊したのだ。紫が怒りを隠しきれないのも当然である。 だが冷静に考えてみれば遅かれ早かれ紫にかけられた『セト神』の能力は消えていたのだ。よく考えて欲しいスタンド能力はその本体の精神力に左右される。そしてアレッシーがいるのはスキマの中だ。 紫にとっては素敵なスキマ空間であっても人間、スタンド能力を持っているとは言えアレッシーだ。彼の精神力が一般人より上だとしてもあの空間に長時間耐えられるはずがない。 上も下も地面も定かでなく、一面目と手が空間を支配しているのだ。紫と邂逅した時には紫の姿で精神を保っていられたが、美しい紫の姿が無くなれば当然発狂や気を失うに決まっている。 ここはむしろアレッシーの精神が良くここまで持ったと言うべきであろう。 事情はともあれ紫は怒気を発してしまったのだ。それを感知したのは言うまでもない、彼女の腕に抱かれている藍だ。 藍は紫の怒気に我に返った。そして目の前の光景に愕然としてしまった。 彼女は紫の胸で泣いていたのだ。紫の服は藍の涙と鼻水と涎でべちゃべちゃに汚れているのだ。いや汚れたと言うのは正確でない、藍が汚したのだ。 藍は自らの顔から血の気が引いていくのを知覚した。己がしでかした行為に慄然とした。主の服を汚してしまったのだ。 恐怖の余り震えが止まらない。 「藍、どうしたのかしら」 紫は終始笑顔を崩さない。橙であるならば紫が怒っていないと誤認したはずだ。だがここにいるのは彼女との付き合いも長く、一つ屋根の下で暮らす式の藍なのだ。 当然、紫が笑みの下に怒りを宿していることは藍にとっては一目瞭然だ。 「も、申し訳ありません紫様!」 彼女は紫の怒りを静めるため、己の軽率な行いを謝罪した。 「ふぇ? 藍、別にいいのよ」 「いえ、親しき仲にも礼儀はあるべきです。私の紫様に対する、この礼節を欠いた行為お許し下さい」 そして土下座。内心紫にまた怒られるとビクビク怯える藍にはこうするしかなかった。 対するいきなり土下座されて謝られている紫は驚き、こちらもまた、ある可能性に怯えていた。 折角『セト神』の能力で見てくれだけでなく精神や経験といった面まで若返り、在りし日の美少女へと戻ることが出来たのだ。 念願であった藍の愛を取り戻すことが出来たと思った刹那、また彼女に『境界』を敷かれ、一線を画した態度を取られてしまうのか。 「許せない」 思わずそう口から言葉が出てしまう。紫は許せない。折角良い雰囲気になっているのにスタンドを解いたアレッシーが許せないのだ。 藍はまたもや誤解した。紫が誰を許せないのか言わないものだから『藍の行為が許せない』と受け取ってしまったのだ。 そんな藍の心情など知らない紫は溢れんばかりの怒気を携えて藍に告げるのだ。 「ちょっと出かけてくるから……」 「ま、待ってください!」 「晩御飯いらいないから……」 アレッシーを問い詰めようと空間にスキマを作り出し、そこへ身を投じた紫。いつぞやと同じように一人取り残された藍。 「ぐす、ゆかりさまがまた家出しちゃった……うわぁーん!」 その泣き声は紫には届かなかった。 紫はキレていた。アレッシーがスキマ空間の中で泡吹いて気絶している様を見てしまったからだ。理不尽だが仕方が無い。だって紫だもの。 ともかく、泡を吹いているアレッシーをどう起こそうか思案しなければならない。その選択肢には蹴ったり殴ったりと言うのは含まれない。 だって少女だもの。こんなおっさんに触りたくないと思って当然である。 ならばどうするのかスキマ空間から地上に落としてその衝撃で起こせばよいのである。 パカッとスキマが開いてメメタァと地面に衝撃するアレッシー。 「ムニャムニャ…ハッ!」 地面に横たわったアレッシーが目を開けるとそこには途轍もなく不機嫌そうな女性が立っているのだ。言うまでもない、八雲紫だ。 (あ、奇麗な足……) 彼が紫の足に見とれていると突然激しい衝撃が彼を襲った。 「ギニアアーッ!」 そう弾幕だ。紫が彼に弾幕を放ったのだ。 「相変わらず下衆ね! それよりもどういうことかしら。スタンドを解除するなんて!」 未だ痛みに唸っているアレッシーを気遣うことなく問い詰める紫。 「あん? スタンド……? オレのセト神はあんたにはきかなかったじゃヘブホォ!」 生意気にもタメ口なアレッシーを日傘で叩きつける紫。アレッシーにかける慈悲など持ち合わせていないようだ。 「何で! 早く答えなさいよ」 「ふぐぅ、オレたちスタンド使いの能力はソイツの精神力に左右される……のです。え~とだからですね、気絶したり寝たりすると……」 「スタンドの効果がなくなるって言うの?」 紫の言葉にコクコクと頷くアレッシー。だが彼女は納得していない。 「⑨ね! だったら寝なければいいじゃない! 決めたわ。今から寝るの禁止ぃ~」 「ええぇ!?」 まさに紫。他人の都合など知ったことではない。 「あ、あのぉ、さすがに寝ないと死んじゃうんですけど……」 紫は懇願するアレッシーを一睨みして黙らせる。だが彼の言うことは一理どころかもっともだ。彼が人間である以上睡眠は避けられない。 一日や二日寝ずに済むのならばちょっと危ない薬を使えば何とかなるかもしれない。だが金輪際寝るなというのは非現実的だ。 いや、紫は心当たりがあった。金輪際寝ずに済む薬を持っていそうな相手がいるではないか。例え持っていなくてもすぐに作ってくれそうな人物がいるではないか。 「うふふ、スキマツアーよ」 「ヒぃー!」 彼の足元にパックリと亀裂が走り、そのスキマに落下して行く。行き先は……そう永遠亭だ。 「これで万事解決ね」 アレッシーが竹林にメメタァと着地したのを確認し、彼女もスキマへ入り込み、永遠亭へ向かうのであった。 紫の彼に対する扱いは酷い。それはまるで報復を受けることなど考えていないようだ。それも当然と言えば当然である。 大妖である紫と変わった力を持った程度の人間では実力に差がありすぎる。現状ではアレッシーが紫に勝つ可能性など万が一にもありえない。 だが忘れてはならない。アレッシーの能力を。彼のスタンド、『セト神』は現状から相手を変化させるのだ。 戦いは何も相手の土俵でやる必要はない。勝てる場所、状態に持ち込めばよいのだ。 『窮鼠』アレッシーが『猫』紫を噛む可能性は喩え僅かと言えども決して消えることはない。 第三話 愛を取り戻せ! 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/wiki9_vipac/pages/353.html
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/256.html
第三話 水分補給なし!トリステイン魔法学院へ向かえ 「うおぉぉぉぉぉぉ!」 咆哮しながら、フー・ファイターズは建物に向かって走っていく。 ルイズは一応、お姫様抱っこのような形で抱えられている。さすがに怪我人なので、腕ではさんだり、担いでいったりはできないからだ。 「まだ少し距離があるが、なんとかもちそうだな。」 たどり着けることを確信したフー・ファイターズはペースを少しだけ上げた。 いくら応急処置をしたとはいえ、所詮は応急処置。正規の治療は避けては通れない。それに治療を始めるのは早いに越したことはない。 また、もたもたしていてアクシデントに巻き込まれたら、水切れになってしまう最悪の結果さえも考えられる。水を補給できる場所など、土地勘がないのでわからないのだ。どの点から見ても急ぐことがヴェネである。 (途中で気を抜くと、ろくな結果にならないからな。) と、考えながら走り続ける。 そして、もうすぐ門というところで、門の近くの壁に二人分の人影を見つける。 なんだかこそこそと会っているようなので、関わらないほうがいいと判断し、フー・ファイターズはそのまま門の中に入っていく。 そこにいた二人とは、金髪の男とおとなしそうな女。 つまりはギーシュとケティである。 ギーシュが真面目な顔でケティにいう。 「すまない、君と一緒に出かけることはできないよケティ。」 ケティは驚く。まるで死刑の宣告を受けたかのように。しかし、ギーシュはそのまま続ける。 「僕は、ついこの間までは、多くの女性と付き合うことが女性を幸せにすることだと考えていた。 でも、それは違うって思ったんだ。やさしくすることにも限度があるということに! 限度を間違えることは結果的に多くの女性を傷つけることになってしまう。 今まで気がつかなかった所為で、君に今、こんな思いをさせているんだが… 本当にすまない!すまないが、僕はモンモランシー一筋なんだ。わかってくれ!」 某脚本家のドラマ並みに長い台詞をギーシュが言い終わると同時に、ケティは泣き出した。 そして、 「ギーシュ様、ひどいっ…」 ギーシュをひっぱたいて走り去っていった。 ギーシュは自分の罪を受け入れた。 フー・ファイターズは関わらなくて正解だった。 もし関わっていたら、余計ないざこざに巻き込まれていただろう。 珍しく空気を読むことができていたのである。たぶん。 そして、学院の生徒に聞き、医務室に連れて行った。 ひとまずルイズをベッドにのせる。 (これで一安心だ。) と、思っていたフー・ファイターズに新たな衝撃が加えられる。 (…き、傷を治しているだとぉぉぉぉ!) こんなに大きな建物であるから、治療する施設くらいは当然あるのだろうと、そう思ってはいたのだが… 施設ではなく、それは魔法のように治療しているではないか!まぁ、実際、魔法なのだが。 だからである。 (スタンド使い同士は引かれ合う…) つまり、スタンド使いだと判断したのだ。 ルイズは、フー・ファイターズの応急処置と治療の魔法によって、傷は癒えた。 だが、失った血液を元に戻す治療はもう少し時間がかかりそうであった。 明日の授業は欠席だろう。治療をしていたメイジは思った。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/jojost/pages/69.html
「悪いことをする敵」というものは 「心に弱さを持った人」であり、 真に怖いものは、 弱さを攻撃に変えた者なのだ。 ―――とある吸血鬼疑惑の漫画家より 『広瀬康一の憂鬱 三話 ゆれるもの①』 やる気なさげに気だるげな光を灯した瞳には、 前を行く変人の後ろ姿が映えている。 SOS団は今日もまた、われらが団長「涼宮ハルヒ」の提案により、 『面白いものを探す』という名目のもと、2グループに別れ街中をぶらぶら歩き回っていた。 出発前のくじ引きの結果、俺はハルヒと同じグループになり、 残る長門とみくるさんと古泉の三人がもう一つグループとなった。 言いだしっぺのハルヒはなかなかのハイテンションのもよう、 さっきからおもちゃ売り場にで欲しいおもちゃを見つけた子供のように、 端正な顔に嬉々とした笑みを浮かべている。 寝不足でもないのにため息混じりで目は半開き。 至ってテンションはローな俺とは、まるで正反対であった。 「こら! しっかり探しなさい! 超能力者や宇宙人はただでさえ数が少ないのに、 あんたが余所見してる内に見逃したりしたら承知しないんだから。わかった?」 前方から甲高い叱責が飛んで来るが、俺は適当に相槌を打ってかわす。 ハルヒの奴は「もぅ!」とでも言いたそうに俺を見たが、それ以上何も言わなかった。 ただの人間である自分を、いろいろワケわからん世界に引きずり込んだ少女の 後姿をぼーっと見ていると、唐突に――自分自身で疑問に思う。 「なぜ俺はここにいて、こんなことをしているのだろうか?」、と。 かつては、短いだろう一生の中でこんなコトがあるとは思ってもみなかった。 いや、思えるはずも無かった。 自分は「一般人」だから、超能力者でも無ければ未来人でもなく宇宙人でもない。 何の力も持ち合わせない【ただの】人間なのだから。 待ち受ける人生に多少の山あり谷ありはあっても、 人並みの幸せと人並みの不幸に丁度いい割合で出会い、 【普通】と呼べる人生を送るはずだった。 だが、現状で既に、だ。『日常』の中に隠されていた、 『“非”日常』の――おそらくそのほとんど――が、自分に降りかかってきているのだ。 目の前を行く――神の力を持つらしい――愛くるしい外観の少女によって。 (……まぁ、この認識はのちのち大違いだったと気づかされることになるが……) しかし――いつもそうだった。 このことを考えると、 なぜか胸に飛来するものは苛立ちの類ばかりではない。 ――いつからだ? もはや馴れ親しんだ道を力なく歩きながら、キョンはふと、自問した。 ――いつもと変わるはずの無い日常を変えられて、 ――毎回のごとくワケのわからない事態に巻き込まれて、 ――かつてのクラスメイトに殺されかけ、 ――挙句の果てには世界の崩壊の危機にまで面したこともあった。 普通の人間なら嫌気がさす……どころか 現実逃避もいいところ、下手すれば発狂しているかも知れない。 少なくとも、他人にこんな話をすれば「歩道が広いではないか、行け!」で 精神病院へまっしぐら、ワハハハハハーーーーッ!! は間違いないだろう。 そう……自分でもそう思っているはずなのに、不可思議な非日常を体験していくにつれて 募る思いは「こいつは俺が支えてやらなければいけない」、という保護欲や母性愛にも似た 【奇妙な使命感】だった。 …………こんなこと考えてるなんて誰に話せるわけ無いけどな、とうぜんだが。 ――――なんだ、やっぱり普通の高校生じゃないか。 仲良さそうに並び歩く2人を見て、康一は素直にそう思った。 【エコーズ ACT1】を通して堂々と聞いた行動の目的には多少呆れたが、 そのことさえ除けば行動はどこにでもいる一般学生のそれとなんら変わりが無い。 【スタンド使い】のように、超常的な雰囲気が見て取れるわけでもないのだ。 あの『弓』と『矢』に関わっているとは思えない。 これは完全に承太郎さんの……もとい、 ジョセフ・ジョースターさんの勘違いじゃないだろうか? ジョースターさんは、あの透明な赤ちゃんの影響もあって 最近はボケも治ってきたらしいが、 実際に見事な御高齢だ。 スタンド使いといえど、普通の人となんら変わらず年をとるから 当たり前といえば当たり前なのだが。 いくらスタンドが精神のエネルギーだからといって、 いや、だからこそ間違うときもあるんじゃないか? 調査のためにこんな悪質なストーカーみたいなことをこっそりしているが、 『調査する必要がない』とすれば、これ以上覗き見するのは忍びないし。 あの2人や、調査のためにだましている他の人たちにも申し訳ない。 なんだかこれじゃ、まるでぼくのほうが悪者みたいじゃないか。 ホテルに帰ったら真っ先に承太郎のところに報告電話を掛けようと決め、 康一はエコーズを飛ばしたまま追跡を再開したのだった。 「……って! ちょっと、キョン! 話し聞いてる!?」 「うおっと! ……悪い、何の話だった?」 思考から急に現実に呼び戻され、 何を考えてたんだ、と自身にあきれて頭をかく。 気づけばハルヒの怒ったような顔が目の前にあって、 思わず少し、ドキッとしてしまった。いつも見慣れてる顔なのに、ああくそ! あんなこと考えちまうからだよ。 なんとなく小恥ずかしくなって目線をずらすと、 目線がずれた分だけすばやく移動し、どこと無く怪訝な顔のハルヒは俺を正面から見つめてくる。 しかも、結構な至近距離から。 逃れようとどれだけ目をはずしても、体後と回り込んで直ぐに追いついてくる。 相変わらず無駄にスペックが高い奴だ。やれやれ…… 「なんだよ、俺の顔になにか変なモンでもついてんのか?」 「ねぇ、キョン。……アンタなんか隠し事でもしてない? “この”わたしに対して?」 ……だから、何でこう無駄に勘が鋭かったりするんだ、こいつは? ああ、あれか? 神様だからか? あーくそ! 近くで見てみりゃやっぱ無駄に 綺麗だこいつ黙ってれば……って熱持つなッ、俺の顔ッ! 無心になれ! あ、やっぱむり。 ムズ痒い思いに浸って混乱していた俺を引き上げたのは、 『俺の中』からいきなり聞こえてきた音だった。 『あ……な……!』 「ん、なんか言ったか?」 「え?」 『あぶ……い!』 何かが聞こえる? いや、聞こえてきた。漠然とした、甲高い悲鳴のような声。 ハルヒじゃない。こいつの声は確かに甲高くてよく通るが、まず口が動いてないし。 しかもこの声、だんだん大きくなってきてる……!? 『あ ぶ な い !』 声がはっきりと輪郭を帯びて耳に届いたとき、俺は反射的に動いていた。 自分でもびっくりするぐらい、すばやく飛び掛る。 「ふせろッ!」 「え? ちょっときゃっ!?」 肩を掴んでハルヒを横に押し倒す。有無を言ってる暇はなかった。 たとえ後でぶん殴られようが飯をおごらされようが知ったことじゃない。 直後に響く轟音――――砂煙が宙に舞う。 押し倒してから多分一秒と経たない今。 さっきまでハルヒがいたところにレンガ色をしたさびだらけの巨大な鉄骨が一本。 アスファルトの地面を貫いて砕き、そこに荘厳と自己視聴するかのごとく直立していた。
https://w.atwiki.jp/wiki9_vipac/pages/347.html
https://w.atwiki.jp/tomutomu/pages/106.html
デルコマンダー「・・なっ!」 デルセイバー「おそいっ!」 デルセイバーはいつの間にデルコマンダーの後ろに回っていた。 デルセイバー「おわりだ」 デルコマンダー「ここ・・まで・・なのか・・」 デルコマンダーがかくごをきめたそのとき ???「そこまでだ」 デルセイバー「なんだ!!」 ハープーン「われの名はハープーン貴様を消しにきた」 デルセイバー「そんなこと・・」 そのときにはもうおそかった三つのミサイルが飛んできている デルセイバー「そんなたま!!」 しかしデルセイバーのはやさおしてもよけきることはできなかった デルセイバー「な・・・なにぃ・・・・」 デルセイバーは倒れた・・・
https://w.atwiki.jp/wiki16_novel/pages/39.html
月曜日 今日はシンボル操作術の授業がある シンボルを操作して針に糸を通したり 習字やマッチ棒を積んだりと、おおよそ 授業とは思えないような内容だが、これが案外骨が折れる 取り敢えず自分のシンボル視点で針に糸を通そうとするのだが 全く上手くいかない 一歩愛海はすでに雑巾を縫い終えていたりする …なんでそんなに器用に扱えるのだろうか? 夕凪にいたっては糸を通す通さない以前に針を折ってしまい 笹本が叱られている 不憫だ 明はこういう細かなことは大抵何をやっても上手くいかない シンボルと一緒にイライラしながら習字をしているが 汚すぎてとても読めたものじゃない その点、白井は達筆である 薄っぺらいシンボルが筆に巻きついて字を書いている 窓際では西田さんが日の光を浴びてシンボルと一緒に寝ている いつも彼女の組み手を見ていると起こすべきかどうか迷う… 寝ぼけて殴られでもしたらたまったものじゃない 「…ぃやった!」 やっと針に糸を通せたので思わず声を出してしまう マッチ棒タワーよりこういうのの方が俺のシンボルには難しいので 相当時間がかかってしまった この勢いのままさぁ次は裁縫だ!と思った瞬間 授業の終わりを知らせるチャイムが …また、何も縫えなかった…
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3741.html
窮奇退治は昌浩の完治まで、延期が決定した。敵はあの大妖怪、なるべく万全の状態で挑みたい。 昌浩が養生している間、一度だけ彰子が見舞いに来た。 自分がさらわれたせいで、昌浩が重傷を負ったと彰子は酷く気に病んでいた。 昌浩は彰子は励まそうと、必死に明るい話題を振った。その中で、彰子が蛍を見たことがないと言った。蛍の時期はとうに過ぎていたので、ならば来年一緒に蛍を見に行こうと昌浩は約束した。 その間、ヴィータが歯ぎしりせんばかりに不機嫌だったのに、昌浩は最後まで気がつかなかった。 数日もすると、昌浩は起き上がれるようになった。激しい運動は厳禁だが、それ以外の行動は大体許されている。シャマルの治癒術は本当に素晴らしい。出来るなら教えてもらいたいくらいだった。 昌浩は書物と睨めっこをしながら、円盤状の物体をからからと回していた。 「何してんだ?」 ヴィータが昌浩の手元を覗き込む。 昌浩が目が覚めましてからというもの、ヴィータは食事を運んでくれたり、何かと世話を焼いてくれる。あまりに優しいので、昌浩の方が戸惑っていた。 「これは占いの道具なんだ。窮奇の居場所が占えればと思ったんだけど」 結果は芳しくない。それにこれくらいのことは晴明がとっくにやっているだろう。晴明すらわからないことを、昌浩がわかるわけない。 「占いねぇ」 ヴィータは占いという奴がどうも信じられない。未来が本当に予知できるなら、未来はすでに決まっていることになる。努力するもしないもすべて決まっている。ならば、心は何のためにあるのか。 「あ、疑ってるな。よし、ならヴィータの未来を占ってやる」 昌浩が道具に手を伸ばす。 「おもしれぇ。やってみろ」 円盤がからからと回り、結果を示す。昌浩はじっとその結果を読み取ろうとする。 無言のまま、時間だけが過ぎていく。 「おい」 昌浩は真剣な顔のまま答えない。そのあまりに真剣な様子にヴィータが不安になる。 「まさか、よくない結果が……」 「ごめん。わからない」 「うーがー!」 ヴィータが吠えた。 「さんざん待たせて、なんだよ、それは!」 「ご、ごめん、だって見たことない形だったから」 昌浩は本で頭部をかばう。 「もう少し時間をちょうだい。きっと占ってみせるから」 「まったく。それでも晴明の孫かよ」 「あー! ヴィータまで孫って言ったー!」 「いやー。この台詞一度言ってみたかったんだよ」 「孫言うな!」 憤慨する昌浩を、ヴィータはきししと笑う。ふとその顔が疑問に染まる。 「お前、今何て言った?」 「孫言うな」 「その前だよ」 「えーと、ヴィータまで孫って言った、だったかな?」 「お前、名前……」 「ああ、ヴィータだよね。やっと言えるようになったよ」 昌浩はにっこりと笑う。 「いやぁ、苦労したよ。毎晩ヴィータ、ヴィータ、って繰り返し練習して」 ちなみにザフィーラの名前はまだ練習中だ。 「ヴィータ。これで合ってるんだよね?」 ヴィータの拳が昌浩の頭を叩く。 「な、何すんだよ、ヴィータ」 昌浩が頭を押さえてうずくまる。 ヴィータは拳を握りしめたまま、全身を震わせていた。 「ヴィータ?」 「気安く呼ぶんじゃねぇ!」 ヴィータが再び拳を振り下ろす。その顔が真っ赤に染まっていた。 「どうしたの、ヴィータ?」 「だから、繰り返すな~!」 ドタバタと暴れる音が屋敷中に響いていた。 「いやー。春だねぇ」 「夏だがな」 「連日快晴だねぇ」 「それはその通りだ」 もっくんとザフィーラは、昌浩の部屋の屋根の上で並んで日向ぼっこをしていた。 「昌浩についていなくていいのか?」 「そんな野暮はせんよ」 もっくんが後ろ脚でわしわしと首をかく。本人に自覚があるかどうかは知らないが、ヴィータの気持ちは傍から見れば明らかだ。 「すまんな。気を使わせて」 「いや、昌浩にとってもいいことだ」 「ほう。もっくんはあの彰子とかいう娘を応援しているのかと思ったが?」 「おっ。堅物かと思いきや、話せるねぇ。ただし、もっくん言うな。俺のことは騰蛇と呼べ」 「心得た」 「それで彰子に関してだが、結論から言って、あの二人は絶対に結ばれない」 もっくんは一転、厳しい表情になる。 「どういうことだ?」 「身分が違い過ぎる。かたやこの国一番の貴族の娘。かたやどうにか貴族の端に引っかかっている昌浩。あり得ないんだよ、この二人が結ばれるなんて」 「身分とはそんなに大事なのか?」 しょせん同じ人間ではないか。気にするほどの差があるとザフィーラには思えない。 「そうだな。お前たちの主は女か?」 ザフィーラの緊張が一気に高まる。 失言だったと、もっくんは詫びた。 「お前たちの主を詮索しようとしたわけじゃない。例えば、お前たちの主が女だったとしよう。もしお前が主に恋愛感情を抱いたら、どうなる?」 「なるほどな」 ザフィーラは遠い目になった。彼のはやてを敬愛する気持ちに、一片の曇りもない。しかし、それは決して恋愛感情ではない。 ザフィーラはあくまで守護獣、人間ではない。そんな自分と主が結ばれることはない。それなのに、主に恋心を抱けば、それはまさに地獄だろう。 「つまり、この国で身分とはそれほどの差ということだ」 しかも、彰子と天皇の結婚の準備が進められているという。晴明の占いでも、それはすでに決まった運命ということだった。もし運命を変えられる力があればと、もっくんは己の無力をこれほど呪ったことはない。 失恋から立ち直る一番早い方法は新しい恋を始めることだ。昌浩を好きなヴィータがそばにいてくれれば、これほどありがたいことはない。 「しかし、我らは……」 「わかっている。窮奇を倒したら帰るんだろう。それでもいいんだ。立ち直るきっかけになれば。それに二度と来れないわけじゃあるまい?」 「それもそうだな。その時は主も連れてこよう。きっと喜ばれる」 そう、きっと大丈夫だとザフィーラは思った。いつか主を含めた全員でこの地を訪れることができる。その時は、闇の書も完成し、主の命も助かっている。時空監理局から追われることもなくなっている。 我ながら虫のいい考えだと知りながら、そんな未来が来るのを願わずにいられない。 ザフィーラともっくんは雲一つない空を見上げた。 その頃、庭ではシグナムが見知らぬ女と対峙していた。女は黒い艶やかな髪を肩のあたりで切りそろえ、この時代では珍しい丈の短い服を着ている。十二神将の一人だろう。 六合と稽古の約束をしていたのだが、六合の姿はない。 「私の名は勾陣(こうちん)。六合は晴明の供で行ってしまってな。代わりに私が来たというわけだ」 「そうか。では、今日の相手は勾陣殿が?」 「ああ。せっかくだから、少し趣向をこらさないか?」 勾陣は三つ叉に別れた短剣を両手に持ち、宙を切り裂いた。空中に裂け目が走り、シグナムの体がその中に吸い込まれる。 シグナムが目を開けると、そこは砂と岩ばかりの荒涼とした大地が広がっていた。 「次元転移?」 「ここは我ら十二神将が住む異界だ。稽古もいいが、ここなら思う存分暴れられるぞ」 勾陣が口端を釣り上げる。氷のように鋭い酷薄な笑みだった。 シグナムも勾陣と同じ笑みを浮かべる。 「なるほど。より実戦的にというわけか」 「それと最初に言っておく。私は六合より強いぞ」 「面白い。では、いざ尋常に勝負!」 シグナムのレヴァンティンが炎をまとい、勾陣の魔力が炸裂する。 普段は静かな異界に、その日はいつまでも爆音が轟いていた。 夕刻、帰宅した晴明は昌浩の部屋に向かった。天皇と彰子の結婚が正式に決まったということだった。後は日取りを決めるのみ。今すぐということはないが、もはや二人の結婚は避けられない。 薄々感づいてはいたのだろう。昌浩は「そうですか」とだけ呟いた。 それからさらに数日が過ぎた。 昌浩は表面上は明るく振舞っていたが、時折沈んだ表情や物思いにふけることが多くなった。そして、以前にもまして窮奇を倒すべく猛勉強を始めた。まるで勉強に打ち込むことで、何かを忘れようとしているかのように。 早朝、昌浩は目を覚ますと素早く着替える。怪我の為、長期休みになってしまった。同僚にも迷惑をかけたし、今日は出仕するつもりだった。晴明から頼まれた仕事もある。 「よし。完全復活」 「ほう。よかったじゃないか」 今日はよほど早起きしたのか、ヴィータが戸口に立っていた。 「うん。これもヴィータたちのおかげだよ。本当にありがとう」 シャマルの魔法とヴィータの看護がなければ、まだろくに動けなかったに違いない。 「いやー。そう言ってもらえると、こっちもありがてぇよ」 ヴィータはのしのしと部屋に入ってくる。ヴィータは指で昌浩に座るように示す。 「大事な話?」 昌浩はまだ気づいていない。ヴィータの目がまったく笑っていないことに。 ヴィータは深く息を吸い込み、 「この大馬鹿がー!!」 大音量が安倍邸を揺らした。昌浩は耳を押さえて顔を引きつらせる。 ヴィータは指を鳴らしながら、昌浩に詰め寄る。 「お前が治る日を、どれだけ待ったことか。怪我人を怒鳴りつけるのは趣味じゃないからな。これで思いっきりやれる」 晴明から託された昌浩を叱る役をヴィータは忘れていない。それどころか世話を焼くことで、怒りが鎮火しないようにしていたのだ。ヴィータの怒りは最高潮に達していた。 「あの……ヴィータさん?」 「やかましい! そこに正座」 「はい!」 「大体お前は自分が怪我をしてどうするんだ。助けるにしたって、もっと上手くやれ!」 「いや、でも」 「言い訳するな!」 「ごめんなさい!」 ヴィータが機関銃のように怒鳴り続ける。昌浩はそれを黙って聞くしかなかった。 それから一刻の後、もっくんが昌浩の部屋を訪れと、晴れ晴れとした顔でヴィータが出てきた。 「いやー。ようやくすっとしたー」 もっくんが部屋の中を覗き込むと、そこには真っ白に燃え尽きた昌浩がいた。 その夜、昌浩が仕事を終えて帰ると、シグナムたちは晴明の部屋に集められていた。 「昌浩や。彰子様には会えたのか?」 「はい」 昌浩は寂しげに笑う。晴明の取り計らいで、昼頃、昌浩は彰子と対面していた。そこで昌浩は彰子に絶対に守ると誓った。誰の妻になってもいい。生涯をかけて彼女を守る。それが昌浩の誓いだった。 「それで窮奇の居場所は?」 「はい。貴船山だと思います」 都の北に位置する貴船山。そこには雨を司る龍神が祭られている。 窮奇が北に逃げたのと、ヴィータたちが来てからというもの、一度も雨が降っていない。それが根拠だった。おそらく窮奇によって封印されているのだろう。 「ならば、一刻の猶予もないな」 シグナムにとって、ここは楽園だった。六合や勾陣、他の神将たちとも、実は紅蓮とも、幾度も手合わせした。こんなに心躍る相手がいる世界をシグナムは知らない。 「そうだな」 ヴィータとて離れがたい気持ちはある。 しかし、八神はやてを救う為、二人は未練を振り切って立ち上がる。 「はやてちゃんの為にも、お願いね、みんな」 シャマルが転送の準備を開始する。それをザフィーラが咳払いで遮る。 シグナムとヴィータがじと目でシャマルを見つめていた。 「あっ」 うっかり、はやての名前を口に出してしまっていた。だらだらと脂汗がシャマルの顔を滴る。ちなみに、ヴィータは以前自分がはやての名前を出しことを覚えていない。 「わしは何も聞いておりませんぞ。なあ、昌浩や」 「えっ? ……ああ、はい。俺も何も聞いてないよ」 「二人とも、気を使わせてごめんね」 シャマルが涙目で感謝の意を告げる。 やがて緑の魔法陣が足元に出現する。 昌浩、もっくん、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが、最終決戦の場へと飛んで行った。 その頃、アースラ艦内では、クロノたちが出撃の準備を進めていた。 「それでヴォルケンリッターの動きは?」 「それが変なの」 クロノの質問にエイミィが首を傾げた。 「あの世界、時間の流れが全然違うみたい」 アースラでは、クロノたちが青龍たちと戦ってから、一晩しか経っていない。それなのに、向こうでは半月以上の時間が経過しているようだった。 どうもその間、ヴォルケンリッターたちは原住生物と戦い続けているらしい。 「闇の書もかなり完成に近づいたということか。みんな、準備はいいか?」 クロノが集まったメンバーを見回す。 ユーノにアルフ、青い顔をしたなのはとフェイト。 「な、なのは、どうしたの?」 ユーノがなのはの顔を心配そうに覗き込む。 「ちょっとイメージトレーニングを」 なのはは車酔いをしたかのようにふらふらしていた。 青龍に備えて、父と兄に怒られた時のことを一晩中ずっと思い出していたのだ。 「フェイト、しっかりおしよ」 「……アルフ、大丈夫よ」 フェイトの使い魔のアルフが、フェイトの体を揺さぶる。それにフェイトは消え入りそうな声で答えた。 「エイミィ」 クロノが無言で逃げようとしていたエイミィの腕をむんずとつかんだ。 「フェイトに一体何をした?」 「ええと、頼まれてあの戦いの映像をちょっと……」 フェイトはフェイトで、あの戦いの映像を一晩見続けたのだ。しかもエイミィの好意で、男連中の顔を大写しにした編集版を。 苦手意識を克服しようと無理をすれば、かえって悪化する場合がある。なのはたちの負けず嫌いが今回は完全に裏目に出た。 クロノはユーノとアルフをつれて、部屋の隅に行った。 「いいか。男連中の相手は僕らでやる。二人には絶対に近づけるな。最悪、一生のトラウマになる恐れがある」 ユーノとアルフが決意を込めた表情で頷く。 そして、五人は転移を始めた。 目次へ 次へ